ちょっと前の「社員の発明、会社に特許権 知財戦略案に帰属先変更方針」の特許法改正は、逆効果かもと思う件

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皆さんこんにちは!

ちょっと前になりますが、日本の特許法が「社員の発明は原則として会社に特許権を付与する」という改正がされました。

しかし、この法改正の効果はあまり出てないばかりか、逆効果になっているのではないかと思いましたので、それについて記しておきたいと思います。

アメリカでは日本のような「発明金一封」はない。常に給与の額で評価される

かなり前になるが、日本で職務発明に関する対価請求訴訟が相次いだとき、色々な人からよく、「日本は報奨金がすごく少ないけど、アメリカでは多額の報奨金がもらえるんでしょう?」という質問を受けた。日本で、1件1万円以下という発明報奨金が問題になっていた時期である。これが少ないと考える人々は、比較例としてまずアメリカの例を(おそらく高額であろうと予想して)知りたがったのだ。

しかし、アメリカでは、職務発明をすることが期待される社員の場合、その職務発明の対価は、(契約により)その社員への報酬に織り込み済みであるのが普通で、「発明報奨金」のような考え方はない。すなわち、職務上、発明をすることを期待される社員の場合、発明をするために雇われるのであるから、それに見合う報酬が支払われ、したがって、その結果成された職務発明は企業が譲り受けるというわけである。この譲渡自体は無償ということではあるが、それに見合った報酬がすでに支払われているというわけである。

もちろん、期待するような発明をできなかった場合でも、すでに払われた報酬を返せとは言われない。しかし、そのような「成績の良くない」社員はクビになるかもしれないし、反対に、自分がした発明に対する報酬が足りないと考える社員はその会社を辞めるということになるだろう。その結果、優秀な社員はより多くの報酬を得たり、より良い転職先を得、そうでない社員は冷遇(最悪クビ)を強いられることになるのである。



元日亜化学の中村教授が「あなたは奴隷だ」と言われた理由

昔、青色ダイオードの元日亜化学の中村教授がアメリカで「あなたは奴隷だ」と言われたというのは、安い報酬(1万円程度の発明報奨金)だったにも関わらず、会社に残り素晴らしい発明をその会社のためにし続けたからである。アメリカではこういうことはあり得ず、大幅昇給がされない限り、さっさとその会社を去っていくのが普通だろう。

日本では法改正がされても発明実績に応じた給与が与えられるとは思えない。

上記改正だが、会社にとっては福音で、安い給与で優秀な社員に発明させる続けることができるものであるというように聞こえる。もちろん、建前としては優秀な社員には高額の給与を与えるはずであるということなのかも知れないが、予想どおり、労働流動性が極めて低い日本社会では、アメリカと同じような状況が実現していない。給与は低いままである。

すなわち、上記したアメリカのシステムは、労働市場の流動性が高く、個人としての競争力が問われる状況の下で成り立つものだったのである。

したがって、上記法改正により、それこそ、日本の発明者は皆、「奴隷」になってしまったのではないか。もともと日本の特許法35条の趣旨は、流動性が極めて低い日本の「終身雇用制度」に鑑みて立場の弱い従業員としての発明者を保護するために規定された制度のはずである。その前提がほとんど変わっていないのに、発明者の保護が低くなるというのは、もともとの35条の趣旨を没却することになっていると思う。

その結果、この数年で日本企業の発明力は極端に低下してしまった。

これからは発明者はより良い報酬を求めて海外に出ていく

グローバル化したこの時代、優秀な発明者を日本という「国」に縛り付けようとしても無理である。安い報酬で良い発明を奴隷のようになすことを求められた技術者は、より高い報酬や評価を求めて外国にでていくことになるのは当然である。

これからは益々「個」が問われ、どんな大きな企業も1人の優秀な個人に負ける時代である。良い発明をしてほしいなら、良い報酬と待遇を与える。そして、その前提として、まず、労働流動性を高める。日本を成長させたのであれば、これが採るべき政策であると思う次第である。

それではこの辺で!


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