日本発医療機器の開発を進めるにはどうすればよいのだろうか(2)

日本発医療機器の開発を進めるにはどうすればよいのだろうか(1)で、

日本発医療機器の開発を促進するには、

(1)スピンアウトの創出

(2)スピンアウトを通した民間投資資金による医療機器開発の促進

(3)スピンアウトと臨床医師、パートナー大手医療機器メーカーとによる臨床開発

(4)治験や薬事承認等、各種開発環境を整備

が必要であると思うと書きました。

この状況に対して、在米の日系技術移転ブローカーであるわれわれはどのような役割を果たせるかということで、日本技術への投資に特化したジャパンテクノロジーファンドを作るという案を書きました。

このファンドの役割の一つは、アメリカの勢いを利用して国内の状況にレバレッジをかけるということがあるのではないかと思っています。


メリカは日欧を合わせたよりも大きい市場規模を持ち、その成長率も大きく、医療機器業界を牽引する大企業のほとんどはアメリカ企業です。また、先進的医療
機器を開発する企業の数は、日本の数社に対して、アメリカには明らかに1000以上あると言われています。これを利用して、日本発医療機器の開発を促進す
るというアイデアです。

例えば、J1大学のJ2先生によるアイデアがあったとして、これを支援する日本企業J3(中小製造メーカ)があった
とします。ただし、J2先生の希望は、あくまで世界市場に広げることで、できれば、アメリカ企業U1等に商品化をしてもらいたいと考えています。ただし、
アメリカ企業U1は、前臨床やフェーズ1,2を終えているなどの成熟度の高いアイデアにしか興味がないということがあります。そのためJ2先生は悶々とし
た日々の中で開発を続けています。

1つの解決策は、J2先生のアイデアを米大学U2のトランスレーショナルリサーチ(いわゆる実験室と臨床
応用につなぐための橋渡し研究)にかける方法です。最初は、評価のみをして、その結果、フィージビリティが高いということであれば、J1大学とU2大学の
スピンアウトとして、S1を米国で、S2を日本で立ち上げます。S1とS2は別企業でも良いですが、経営権は同一である必要があります。次に、日本の大学
J1でも、企業S1,S2と共にトランスレーショナルリサーチを開始します(この場合、日本の大学J1の研究室とアメリカの大学U2の研究室との間でインター・インスチューショナル・リサーチアグリーメントが必要になる場合があるかもしれません。)。

このとき必要な費用は、トランスレーショナルリサーチと、知的
所有権を確保するためのコストのみとします。すなわち、この時点ではS1,S2は、プロジェクトのみで実態はない、バーチャルな存在で、上記のジャパンテ
クノロージーファンドが委託によるマネージメントを行っている状態とします。

米国の大学U2でトランスレーショナルリサーチを行う利点は、
米国での商品化が起こりやすく、また、U2の持つビジネス的な側面の支援も受けやすいからです。U2では、トランスレーショナルリサーチ中も、さまざまな
機会のもとで、投資家や米国企業にプレゼンテーションを行い、たとえば、その中である1つの米国の新興企業U3が興味を示し、その企業U3の支援のもとで
さらに一段上の開発を行うことになったとします。

なお、米国のS1と日本のS2は、米国と日本で、それぞれ商品化を競い合うような体制とし
ます。同じ方向に行くかもしれませんし、アメリカと日本の事情をそれぞれ反映して違う方向に行くかもしれません。しかし、両者はそれぞれの研究成果を共有
するものとし、常に連絡を取り合うことにします。なお、米国で開発した技術情報はそのままでは日本に持ち出せないため、節目節目での特許出願を行うことに
より技術持ち出し許可を確保することが重要です。

製品の成熟度が米国大企業の基準に達したところで、U3がS1の経営権をU1に渡し、米国
での技術移転を完了します。一方、日本のS2については、日本での上市を目指しますが、S1の経営権がU1に移った時点で、U1とのジョイントベンチャー
になるかもしれません。最終製品化はグローバル市場をもつU1によりなされることになります。

ここでキーとなるのは、トランスレーショナル
リサーチの費用(すなわちS1とS2の最初の出資)は誰が出すのかということと、上記のスキームを誰がコントロールするのかということです。一部の費用は
国、若しくは州のグラントを利用できますが、やはり民間資金でやるべきと考えます。したがって、ジャパンテクノロジーファンドがこの投資を先導します。民
間資金にはJ2先生ご自身や大学J1の出資も含まれます。日本企業J3も出資可能でしょう。そして、それでレバレッジをかけて、このスキームに興味を持つ
他の投資家からも資金を引き出せるかもしれません。

以上のスキームにより、J2先生の技術はまず米国で商品化され、ついで日本で商品化され
ます。そして、このとき、製品の製造は品質の関係で日本企業が行うことなれば良いのではないでしょうか。投資家が日本人ということなので、この辺りはコン
トロールが利くと思いますが、仮に外国(米国に限らず中国の可能性もあります)で製造されることなったとしても、J2先生のアイデアが全く商品化されない
よりは、全然ましだと思います。

以上のスキームにより、

(1)スピンアウトの創出

(2)スピンアウトを通した民間投資資金による医療機器開発の促進

(3)スピンアウトと臨床医師、パートナー大手医療機器メーカーとによる臨床開発

(4)治験や薬事承認等、各種開発環境を整備

が満たせるのではないかと思っています。

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