米国における「折り紙と著作権」 Moses & Singer米国法律事務所(NY)のニュースレターより

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ニューヨークの法律事務所Moses & Singerのニュースレターから、友人、内藤弁護士(NY州)より許可を得ての転記になります。なお、以下はあくまでも記事であり、法律的アドバイスを構成するものではありませんので、ご注意ください。

Moses & Singer LLPの内藤博久ニューヨーク州弁護士の連絡先は以下になります。
Moses & Singer LLP www.mosessinger.com
The Chrysler Building, 405 Lexington Avenue, New York, NY 10174-1299
Tel: +1.212.554.7800 Fax: +1.212.554.7700
Email: japanpractice@mosessinger.com

ーーーこれより以下、Moses & Singerのニュースレターの記事になります---

「折り紙と著作権」

アメリカでも折り紙は「Origami」と呼ばれ、人気があります。子どもの頃に覚えた折り鶴ややっこさんなど、久しぶりに折っても何とか形になるものですが、いわゆる創作折り紙となると、なかなか折り方の見当がつきません。1枚の紙が立体感、躍動感あふれる作品に生まれ変わる創作折り紙については、折り方や発想にも関心が寄せられるところです。便利な時代ですから、インターネット上を検索すると、折り方を説明しているサイトや動画をいろいろ見つけることができます。折り紙作品や折り方は、著作権法ではどのように扱われるのでしょうか。日本では2011年に、折り紙作家である原告が、テレビ局を被告として、著作権侵害による損害賠償等を請求した事件の判決が出ています(知財高裁平成23年12月26日判決(判例タイムズ1382号329頁))。この事件では、被告テレビ局が番組ホームページに「へんしんふきごま」という作品の折り図を掲載したところ、折り紙作家Aが、この折り図はAの著書の折り図(説明文含む)を複製又は翻案したものであるとして、折り図の著作権(複製権ないし翻案権、公衆送信権)及び著作者人格権(氏名表示権、同一性保持権)の侵害にあたると主張しました。一審、二審とも、Aの折り図について、創作性があり著作物に当たると判断しましたが、被告の著作権侵害は認めませんでした。著作権侵害が認められるためには、被告が、複製品であれば著作物を「有形的に再製」し、翻案品であれば著作物の「具体的表現に修正、増減、変更等を加えて」、著作物の「表現上の本質的特徴を直接感得させる」ものを作ったと認められなければなりません。

本件では、Aの折り図とホームページに掲載された被告の折り図は、説明文の位置づけ、写真や色分けの有無など相違点が存在し、被告の折り図がAの折り図の「有形的な再製」には当たらず、また、「表現上の本質的特徴を直接感得させる」とはいえない、と判断されました。

アメリカではどうでしょうか。

Moses & Singerで知的財産権及び訴訟を担当するパートナーであるDavid Rabinowitz弁護士に見解を尋ねてみました。

「折り紙に関する著作権は非常に興味深い問題を含んでいます。直近では、アメリカの著作権法における、折り紙の折り図(Crease patterns)の著作権侵害が問題になった訴訟として、Lang v. Morrisという事件があります(11 CV 08821, S.D.N.Y)。この事件では、折り紙作品(Origami Sculptures)の著作権の保護が正面から争われたわけではなく、複製されたのは折り図でした。」

(筆者註:Lang v. Morris事件は、折り紙作家らの折り図に、被告が新たに彩色するなどして自らの作品を作成し、展示等を行ったとして、折り紙作家らが被告を訴えた事件です。原告には日本人の折り紙作家も含まれています。原告の一人であるRobert J. Lang氏のサイトで原告の折り図と被告の作品が対照されています。

)。

そうすると、上記の日本の訴訟と同じように、折り図の著作権が問題となったのですね。
「そもそも、折り図のような図面は、その本質として、折り紙の折り方の実用的な説明・指示にすぎないため、著作権の保護を受けないのではないかとの議論があります。アメリカの著作権法において、ある工程をどのように実行するかという指示については、著作物として保護されません。アイデア、手続き、プロセス、システム、操作の方法といったものは、著作権法による保護の対象ではないのです(17 U.S.C. §102(b))。何かを実行する基本的な方法を考えついても、それを著作物として独占することは許されません。ですから、料理のレシピも、著作物として保護されてはいません。しかし、こういった指示やレシピに、言語による表現が十分に加えられて一冊の本になっていれば、指示やレシピの部分があっても、作品全体として著作権の保護を受けることは可能です(指示やプロセスの部分は保護されない可能性があります)。」折り図が著作権の保護を受けるか否かという点は、日本の裁判所でも検討され、折り図に「作成者の思想又は感情が創作的に表現されている場合」には、著作物として著作権法の保護を受けるという基準が示されています。原告Aの折り図は、「一連の折り工程(折り方)を見やすく、分かりやすく表現したものとして創作性を認めることができる」(第一審判決)と判断されました。

(内藤・寺田註:日本の訴訟で問題となった「折り図」は、折り工程の手順について「図面(説明図)、文章(説明文)、完成形を示した図面(説明図)及び写真等によって説明したもの」(第一審判決)です。このように、具体的に表現された「折り方」であっても、アメリカの著作権法のもとでは、単なるプロセスや操作の方法であるとして、著作物性が認められない可能性もあります。日本でもアメリカでも、アイデアが著作権法で保護されない点は同じですが、創作的な表現と認められる範囲や判断要素がどのように異なるかについては、著作権を考えるうえで慎重に検討すべき点と思われます。)

「Lang v. Morris事件の場合はやや複雑で、1枚の折り図そのものが問題となりました。折り図は1枚の紙を折って折り紙作品を作る方法を指示するひとつの手段です。したがって、前述のように、基本的には、著作権では保護されません。しかし、Lang v. Morris事件では、折り図には、美的な性質が加えられている、つまり、折り図自体が鑑賞しうる美術作品なのだという主張がなされています。
裁判所がこの問題を扱っていれば、実用品と、非実用的な要素の著作物性をめぐる、難しい判断を強いられることになったでしょう。
アメリカの著作権法において、実用品とは、単に外観を表示したり、情報を伝達することではない、実用的な機能を本来的に有しているものを指します。作品の実用品という側面について、著作権の保護を受ける範囲は限定されます。アメリカ著作権法は、絵画、グラフィック及び彫刻の作品は、機械的または実用的な側面ではなく、作品の形状に関する限り、美術的な職業技術による作品を含むと規定しています(17 U.S.C.§101)。すなわち、実用性のある物体のデザインは、そのデザインが絵画、グラフィックまたは彫刻の特徴を備えている場合に、その範囲でのみ、絵画、グラフィックまたは彫刻の作品とみなされます。この特徴は、その作品の実用的な側面とは分離して認識され、独立して存在しうるものでなければなりません。したがって、照明スタンドやベルトのバックルも、照明を支えるとか、ベルトを留めるといった機能と分離できる、美術的または装飾的な特徴を備えていれば、その範囲で、著作物として保護されることになります。この基準を適用することは実際にはなかなか難しいとされています。
Lang v. Morris事件では、結論として当事者が和解しましたので、折り紙の著作権について有意義な先例にはなりませんでした。折り紙作品の折り図が著作権の保護を受けるか否かについては、まだ明確ではないと申し上げておきましょう。」

では、折り紙作品そのものは著作権の保護を受けるのでしょうか? 複雑な折り紙作品は保護されるが、伝統的な、または基本的な折り紙作品は保護されない、という可能性もありますか?
「折り紙作品は、著作権の保護を受けることができると思います。『彫刻の著作物』(sculptural works)はアメリカの著作権法により保護されます(17 U.S.C.§102(a)(5))。折り紙作品が彫刻的な作品であることを否定はできないでしょう。著作権は、複雑な作品にのみ認められるものではありません。アメリカの著作権法では、著作物には最小限の創作性(minimal original authorship)があればよいとされています。どの程度の創作性があれば十分かを測ることは難しいのですが、ハードルは比較的低いと考えられます。
しかし、伝統的または基本的な作品は、著作権の保護は受けられないのではないかと思います。アメリカの著作権法における「創作性」は、かつて作成されたことがないという意味での新しさを求めてはいません。しかし、著作物は、どこかから複製したものではなく、作成者の創意によるものでなければなりません。折り紙作品が伝統的なものだとすると、この著作物の定義に照らした場合、作成者の創作性がないことになります。理論的には、折り紙作家は、伝統的な作品を複製することなく、伝統的な作品を再発明(re-invent)できるでしょうから、このような作家の創意による作品には、著作権が与えられるでしょう。もっとも、著作権が認められても、その作家が著作権を有しない伝統的な作品から、他人が同じ折り紙作品を複製することを、禁止することはできません。
このように、基本的な折り紙作品については、著作権保護の要件に該当するために、作成者の創作性が十分にあるといえるかどうかを個別に判断することになるでしょう。」

折り紙作品がヴィジュアル・アートとして著作権法の保護を受けるとすると、作成者の許可なくその作品を販売したり、複製を作ったり、展示したりできないことになりますね? また、折り紙作品には、著作者人格権も認められるのでしょうか?
「ご指摘のとおり、折り紙作品に著作権が認められると、作成者は複製、販売、展示について、排他的な権利を有することになります。複製については、著書などで折り方を公開していれば、読者に黙示の許可を与えたと解釈する余地もあるかと思います。
また、著作者人格権は、アメリカでは、著作権法に規定されていない限りは、認識されていません。著作権法の§106Aでは、特定の人格権をヴィジュアル・アートの作成者に認めています。ヴィジュアル・アートには、単一または200以下の版から構成される彫刻で、作成者によって連番が打たれ、署名がされているか、作成者によって特定できるマークが付されているものも含まれます。ここにいう人格権とは、氏名表示権と同一性保持権です。」

仮に、折り方を説明した本が著作権で保護されるとすると、著者の許可なく、この本を使って、折り紙を教えることはできるのでしょうか。本をもとに、折り方を解説する動画を公開することはできますか。
「折り紙を教えることについては、著者はアイデアや方法等を自分のものとして保有することはできませんので、本に書いてある方法を教える場合も著者の許可は不要です。同様の問題について、最近、カリフォルニア連邦地裁は、ヨガを教える方法は著作権法で保護されないと判断しました(Bikram Yoga v. Evolation Yoga:http://scholar.google.com/scholar_case?case=5630188188370856618&q=bikram%27s+yoga+college+v+.+evolation+yoga&hl=en&as_sdt=2,33)。一般的にいって、アメリカの著作権法において、著作権とは、複製権や翻案権など法に規定された支分権の侵害に当たらない態様で他人が著作物を利用することを禁じる権利を含むものではありません。
本をもとにした動画については、本に記載されている折り方を教える部分と、言語で表現されている部分とを区別するよう注意が必要です。本の中に著作物として保護されている部分がある場合に、これを無断で動画に取り入れることはできません。たとえば、ある折り紙の基本的な折り方以外に何らかの要素があれば、その本からの引用を使って動画の台本を作るのは危険だということになります。
動画が本とは異なるメディアであっても、動画を含む二次的著作物を作成するという、著者の排他的権利を侵害することは許されません。」

たとえば美術館にある絵画の描き方を説明する本や動画はあまりありませんが、折り紙は身近なアートだけに、折り方や折り図が広く公開されています。今回ご紹介した日本とアメリカの判例は、どちらも折り紙を扱っているとはいえ、事実関係は異なっており、今後もこの分野で新たに興味深い問題点が提起される可能性があります。

(寺田伸子)(インタビュー:内藤博久)

ーーー以上、Moses & Singerのニュースレターの記事になります---

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