世界での存在感が、相対的であれ、絶対的であれ、ますます低下する日本。
ハードパワー、すなわち政治力や軍事力で他の国に影響を及ぼすことには限界があり、やりすぎるとコンフリクトを助長するだけだとして、近年、ソフトパワーを高めることが非常に重視されています。
そういったこともあり、私が以前ブログ記事で書いたように、政府有識者会議「「日本の美」総合プロジェクト」が開かれたり、クールジャパンイニシアチブが実行されたり、各種報告書が出されたりしているわけです。
上の写真のグレン・フクシマ氏の記事も、これに沿うもので、日本のソフトパワーは安全保障においても非常に大きな役割を果たすと述べています。安全保障、すなわちハードパワーに勝るとも劣らない影響力をソフトパワーが持つと言っています。
この記事の目次
日本人は日本のソフトパワーを実は理解していない
ソフトパワーを使えば、武器に頼らずとも、世界から一目置かれ、皆から友人として扱ってもらえるというのです。 要するに、戦わずして勝てるわけですから、軍事予算も削減できる。いいことだらけです。
ただし、記事では、アメリカやヨーロッパで日本文化が影響を与えている例を挙げた上で、「世界の文化的豊かさに日本は大きく貢献しているが、それが日本国内では十分に理解されていないように感じる。」と述べています。
わたしも、まさにここに問題ががあると思います。
日本のソフトパワーとはいったい何なのか、それが日本国内では理解されていないということなんです。理解されていないまま、クールジャパンという言葉だけが先走りして、やれアニメだ、マンガだ、オタク文化だ、コスプレだ、ゲームだと騒いでいる、そういう状態だと思います。しかし、アニメだ、マンガだ、オタク文化だ、コスプレって、本当に日本が世界に誇るべき文化なんでしょうか?日本人の多くは同意できないと思います。一方で、今の政権が言っている「美しい日本」というのも違うような気がします。
ソフトパワーとは何か?
それでは、改めて「ソフトーパワー」とは、いったい何なのでしょう?
以下は以前の記事の繰り返しになりますが、説明したいと思います。
すなわち、ソフトパワーを提唱した第一人者である政治学者のジョセフナイ氏によれば、ソフトパワーとは、「文化力」によって、相手に自分の望むような行動をとらせることです。すなわち、相手の国が素晴らしい人、歴史、制度(=文化)を持っていて、それが他の国も見習って自分の国のものにしたいと思うようなものであれば、
その国は必然的に他の国に大きな影響を及ぼすことができるというものです。パワーとは、そもそも、ある程度強制的なものですが、ソフトパワーとは強制するようなものではなく、他国の人が自然と見習うという行動をとるものなので、軍事力や政治力といった強硬的なイメージを持つ「パワー」を和らげる要素があるのです。
このソフトパワーを最も有効に活用したのが米国で、それに最も影響を受けたのが戦後の日本ではないでしょうか。
今でも、アメリカで流行ったものは何でも日本でも流行るようなような気がします。戦争でコテンパンにやられたはずのアメリカに何も言うことができないのは、アメリカの軍事力による強行性よりもソフトパワーが勝っていた結果なのだと思います。チョコレート、テニス、ゴルフ、ハンバーガーに始まり、最近では、ドーナッツにパンケーキといった具合に、アメリカから「初上陸」したものに日本人は本当に弱い。これは、まさに、映画等を通したソフトパワー戦略により、アメリカが良いと思うものを、日本人も良いと思うようになった結果だと思います。
しかし、時代が変わるにつれて文化/ソフトの価値も変わります。かつては欧米文化に比べて低俗な文化だと思われていた日本の文化(人、歴史、制度)が、ここにきて、世界に非常に高く評価されています。政府はここに目をつけて、ソフトパワー外交を強力に推し進めようとしているのだと思います。
ソフトパワーは価値観、押し付けるものではない
一方で、ナイ氏は、ソフトパワーとは誰かが誰かに押し付けるものではないと言っています。その国が有する文化の価値観にグローバルな普遍性があり、それをその国が追及するような政策をとれば、他国がその国の価値観に追従し、自国が望む結果を獲得することが容易となるというものです。一方で偏った押しつけ価値観に基づく文化では、ソフト・パワーが生まれにくい言っているです。
例えば、アメリカの生活様式というものは、広大な庭にまばゆい緑、美しい邸宅と町並みには、明らかにソフトパワーがあります。アメリカ郊外の美しい住宅地の持つソフトパワーには普遍的な価値観があり、アメリカ人が望ましいと思っているものを我々日本人にも望ましいと思わせることに成功したのです。
すなわち、ソフトパワーというのは、ソフトそのものではなく、その背景にある普遍的な価値観であるということがわかります。
日本のソフトパワーとは?
それでは、日本文化の何がソフトパワーなのでしょうか?日本の文化資産がソフトパワーを持つは確かですが、その背景にある、他国人の共感を獲得しているグローバルかつ普遍的な価値観とは何なのでしょうか?たとえば、日本の着物を着るという生活様式が、アメリカ人がTシャツ短パンを捨ててまで見習うほどの価値をもつということにはなりませんよね。
日本のソフトパワーの元になっている価値観とは、著書「東京ユートピア」の中で寺田悠馬氏も述べているように、「魅力的な文化を生み出した日本社会の根底にある、物事に対する妥協なきこだわり」です。そして、その「価値観を、諸外国の人々にも望ましいと思わせるのに成功して初めて日本は「ソフトパワー」を手に入れることができる」ということなのだと思います。
要するに、 特定の生活様式やアニメやマンガ、ゲームそのものではなく、それを生み出した日本社会の根底にある妥協なきこだわりということです。そして、それは、実は、日本人なら誰でも備えている価値観だと思います。
フクシマ氏の記事によれば、日本のソフトパワーは現在世界で第8位だそうですが、政府や企業がそれに追従する政策をとり、また、日本人個人がそれに追従する行動をとれば、自然にソフトパワーが増大して、日本の世界への影響力が大きくなっていくということなのだと思います。
日本に居たままでは日本のソフトパワーは理解できない
しかし、このままだとやばいことは明らかです。
フクシマ氏の言うように、それがなんなのか、「日本国内では十分に理解されていない」からです。すなわち、日本国内にいては、理解できないのです。
外国に入って行って初めて、そのすごさが実感できる。それが、日本のソフトパワーなんだとも言えます。日本国内で、日本人だけの集まりで、自分たちが伝えたい価値観をあーだこーだと議論しててもダメだということなんです。というか、そもそも議論するものではないということですね。
やっぱり、今こそ、日本で培った普通の価値観を持った個々の日本人や日本企業がグローバルに出ていく時なのではないでしょうか。 そして、そういう人や企業のグローバルな活動自体が日本の影響力を高めていくのだと思います。
すでに海外にいる人たちも、日本人ばかりで固まってないで、どんどん自分の持つ価値観をグローバルに伝えて影響を与える活動を積極的にする時なのだと思います。それが、まわりまわって日本人や日本のためになるのだと個人的に思います。日本に良い影響を与えたければ、まずは、日本人を対象にするのではなく、グローバル社会に向いて影響を及ぼしていくべきでしょう。
それでは、今回はこの辺で!