ソフト・パワーと文化外交

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政府は13日、日本の伝統文化や芸術を海外に発信するための有識者会議の初会合を官邸で開催した。2020年東京五輪・パラリンピックに向け具体策を検討する。安倍晋三首相は「国際社会で存在感を高めるため、文化外交の積極展開が必要だ」と述べた。   会合では、能や茶道など伝統芸能の普及や技能継承のあり方などについて議論を交わした。アニメや和食も取り上げられた。来年6月をめどに提言をまとめる。   座長は俳優の津川雅彦氏。茶道裏千家の前家元千玄室氏、作家の林真理子さんや幸田真音さんらがメンバーとなった。

この記事にあるように、政府(安倍首相)は、「日本の美」を、日本が世界に誇るソフトとして外交に積極的に活かしていく戦略をとっていくそうです。自ら「美」といっちゃうところが、安倍首相的ですが、「美」はともかく、目的はいわゆるソフトパワー外交を行うことなんでしょう。

ソフトパワーと文化外交の関係については、外務省の外交専門誌「外交」でも詳しく論じられています。その表書きでは、

グローバリゼーションの急速な進展は外交におけるソフトパワーの重要性を増大させている。各国が国家としてのイメージ戦略をめぐって激しく鎬しのぎを削る中で、日本の文化外交の在り方が改めて問われている。

として特集を組んでその重要性を説いています。その中に出てくるキーワードは、「ソフトパワー」 、「パブリック・ディプロマシー」、「国家ブランディング」、「クールジャパン」、「ジャパン・コンテンツ」、「文化外交」等です。

 最近、特に文化外交が重要視されるのは、日本に対する諸外国のイメージが歴史認識問題等で若干低下気味であることからだと思います。それで、政治と関係ない「ソフトパワー」で、日本に対するイメージをアップさせようという戦略なのだとおもいます。これは、某在米日本総領事館(注:NYではありません)の文化担当領事が言っていたので確かでしょう。

 確かに、日本文化に対する海外での評価は非常に高く、それがそのまま日本人の評価となっている面はあります。その良いイメージを、そのまま「日本という国」のイメージとしてもらっちゃうという考え方です。

というと、軽く聞こえますが、実はソフトパワーは外交にとって非常に重要です。

 ソフトパワーを提唱した第一人者である政治学者のジョセフナイ氏によれば、ソフトパワーとは、「文化力」によって、相手に自分の望むような行動をとらせることです。すなわち、相手の国が素晴らしい人、歴史、制度(=文化)を持っていて、それが他の国も見習って自分の国のものにしたいと思うようなものであれば、 その国は必然的に他の国に大きな影響を及ぼすことができるというものです。パワーとは、そもそも、ある程度強制的なものですが、ソフトパワーとは強制するようなものではなく、他国の人が自然と見習うという行動をとるものなので、軍事力や政治力といった強硬的なイメージを持つ「パワー」を和らげる要素があるのです。

 このソフトパワーを最も有効に活用したのが米国で、それに最も影響を受けたのが戦後の日本ではないでしょうか。 今でも、アメリカで流行ったものは何でも日本でも流行るようなような気がします。戦争でコテンパンにやられたはずのアメリカに何も言うことができないのは、アメリカの軍事力による強行性よりもソフトパワーが勝っていた結果なのだと思います。チョコレート、テニス、ゴルフ、ハンバーガーに始まり、最近では、ドーナッツにパンケーキといった具合に、アメリカから「初上陸」したものに日本人は本当に弱い。これは、まさに、映画等を通したソフトパワー戦略により、アメリカが良いと思うものを、日本人も良いと思うようになった結果だと思います。

 しかし、時代が変わるにつれてソフトの価値も変わります。かつては欧米文化に比べて低俗な文化だと思われていた日本の文化(人、歴史、制度)が、ここにきて、世界に非常に高く評価されています。政府はここに目をつけて、ソフトパワー外交を強力に推し進めようとしているのだと思います。

 では、日本のどのような文化が、「他の国も見習って自分の国のものにしたいと思うようなもの」なのでしょうか?また、どのようにしてそのような文化を外国に伝えて行ったらよいのでしょうか?

 成功例として、「寿司」があります。ここ15年ぐらいで「寿司」は、日本文化として本当に外国社会に浸透しました。南米などでは、イタリア料理レストランやフランス料理レストランにも寿司バーがあるほどです。 そして、日本に行って本物の寿司をたべたいという人も多く、実際の日本への引き寄せ効果もかなりあると思います。安倍首相も、日本に来たオバマ首相を高級すし店に連れて行きました。オバマ首相も本場の寿司に感嘆したといいます。このように、日本食は、絶大なソフトパワーを発揮しているわけです。

 そして、次は、「日本の美」というわけです。美というよりも、「美感」というべきなので、さらに言えば伝統美・伝統アートということになると思います。ただ、ソフトパワーとは「他の国も見習って自分の国のものにしたいと思うようなもの」です。それに当てはめた場合、アメリカを例にとれば、現時点では、日本の伝統的な歌舞伎とかを多くのアメリカ人が好んで見るとは考えられませんし、着物もアメリカ人が洋服に変えて着るということもないと思われます。オタク文化(伝統文化とは言えませんが)もアメリカ全体が受け入れるとは思えません。しかし、寿司の例もあります。どうなるか分かりません。

 日本の有識者たちが来年の6月にどのような提言をするか楽しみです。

 私のやっているニューヨークとサンフランシスコでの折り紙スタジオの運営に大いに参考にさせて頂きたいと思います。

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