皆さんこんちは!
今回は、『弁理士の日記念ブログ企画2022』への参加ブログです。
この記事の目次
先生、すいません、やっちゃいました!
知財業界、とりわけ特許や商標実務者が最も体験したくないことと言えば、「期限を落とす」ことだと思います。
それもお客さんが決めた納品期限ではなく、国が定めた法定期限、それもリカバリーできないやつです。
特許事務所を経営していると、ある日、スタッフがあなたのところにやってきて、「すいません、やっちゃいました!」等と言われると、「ドキー!」とするわけです。特許事務所で上司に何か相談するときには気を付ける必要があります。それを言われた側は、ついに来たか、どうしよう~と、法定期限を落とした時のことを想像してしまいます。とても心臓に悪いです。したがって、特許事務所では感情的な報告は良くなくて、状況を淡々と報告するのがベストです(笑)。
実際、法定期限(リカバリー不能)を落とすような大きなミスを経験することはほとんどの人はないでしょうけど、残念ながら、ある程度の規模の特許事務所を経営しているかぎり、発生する可能性を0にすることはできません。膨大な数の期限を管理するにはソフトウエアを使うしかないですが、ソフトウエアが正しい通知をしたとしても、実際に処理するのは人間ですからね。・・・・残念ながら起きてしまいます。
やってしまった、翻訳文提出期限の徒過(最悪)
そして、残念ながら私もPCT国内移行の翻訳期限の提出期限を落としてしまったことがあります。
今回は初めてその経験をしたときのことをシェアしたいと思います。
担当者 「先生、すいません、やっちゃいました!」
私 「なにを?」
担当者 「翻訳文です」
私 「なんの翻訳文?」(え、もしかしてPCTの??)
担当者 「PCTの翻訳文提出です」
私 「な、な、な、ま、ま、まじで? 2カ月の期限てこと?」
担当者 「はい。残念ながら、、、」
私 頭から血がサーと引いていく感覚で、「とにかくもう一回確かめよう」
私 自分で確かめ、頭で色々なことがぐるぐる。心臓ドキドキ。。
本当に、今から思い出しても嫌な瞬間でした。
期限徒過後に私がとった行動
日本国内移行の案件だったので、私のクライアントは米国の特許事務所でした。
したがって、うちの起こした期限徒過は、私を選んだその米国特許事務所の責任になってしまうわけです。
とりあえず、メールで報告し、直接会って状況を説明した旨を告げ、その特許事務所のある町まで飛行機ですっ飛んでいきました。
そして、実際に会って状況を説明したわけです。
実は、その後、その案件がどうなったかは分かりません。
彼からのメールは、「クライアントは状況を理解した、あとはこちらで処理する。わざわざこちらまで来てくれてありがとう。」というものでした。
その米国特許事務所の弁理士は今も良い友人同士で、時々、直接電話で話をする仲ですが、その後、そのことに触れることはありません。
このことから得られる教訓は、「まず正直に早く状況を説明し、できる限りの誠意を見せる」です。よく言われていることですが、外国のクライアントは日本の大企業等と異なりミスに寛容です。
一方で期限徒過についての訴訟も多いのは事実であり、その原因をよく聞いてみると、やはり、ミスそのものよりも、その事務所の対応の悪さに腹を立てていることが多いのです。
日本で一番多くの期限徒過の復活訴訟に関わってる弁理士
皆さんもうすうすは気づいていると思いますが、日本は、期限について、世界の中でもっとも厳しい国です。さらに最悪なのは、日付変更線に近いせいで、世界に一番最初に期限がやってきます。そして、国内移行期限は30カ月であり、お隣の韓国や中国のように31カ月や32カ月ではありません。そして、さらに最悪なのは、期限の多くは月曜日に来るのに、そのとき、米国は時差の関係で日曜日だということです。そして、月曜日の朝出勤して間違いに気づいた時には、日本の月曜日はあと1時間!なんてことになるのです。
おそらく日本人の国民性から来るのだと思いますが、アメリカのようにお金を払えば大体の期限はほとんど理由を聞かれずに復活させてくれる国とは大違いです。欧州だって、PCTの国内移行を期限内にしないと、欧州特許庁からはるばる日本の出願人に直接、今ならまに間に合いますよ~的な通知が来たりします。
日本特許庁でもそういうサービスしてるよなんていう人いると思いますが、それは日本語で出願している場合のみです。外国で英語のPCT出願だと、日本の特許庁は、欧州特許庁とは異なり、外国まで通知をすることはありません。私は、過去に、回復訴訟の代理人として、これはパリ条約の内外人平等の原則に反するとして争いましたが負けました。
日本では「期限を守っている他の出願人との間で不公平が生じる」という感覚で、期限を落とすのは期限を落とした人が悪いのだとして、厳しくしているのだと思います。お金を支払って復活させる制度も、おそらく、お金を持っている人だけが優遇されるから不公平とでもいうのでしょう。
そのような制度の結果、日本は、多くの代理人に不幸な体験をさせてきたと思います。そして、実際には日本の弁理士よりも外国の弁理士や出願人を(上記の例参照)。
そんな中、期限徒過により柔軟な対応を求めるPLT(特許法条約)の話し合いに合わせて、日本でも、平成23年に、これまで絶対無理だった期限徒過の救済の要件を緩和する規定が導入されることになりました。具体的には、天変地異でしか救済されなかったものが、「相応の措置」をとっていたにも関わらず期限徒過したものは救済される旨の基準が導入されたのです。
我々は、そのことについて積極的に英語での情報を発信したせいか、多くの不幸な案件の相談が私のところにくることになりました。
それで、おそらく、私は日本の弁理士で一番多くの期限徒過復活案件に関わっていると思います。実際の数はわかりませんが、判例の私の代理案件数の割合から察するにそうだと思います。
私のところに来るのは、他の特許事務所で期限徒過した案件ですが、本当に色々な経緯で皆さん期限を落としてます。
それで私の代理案件で復活できた案件数はおそらく割合にして1割ぐらいだと思います。裁判まで言った件では0です。
アメリカでは専門家証人として期限徒過訴訟に関与
一方、これまで私は、米国での弁護士過誤訴訟の専門家証人として、米国弁護士の日本での期限徒過についての裁判に関わる機会も数回ありました。
アメリカでは、重要な特許の期限徒過について、出願人がその担当弁護士を訴えるケースが多くあります。その中で、日本特許を落とした件について、私が日本の専門家として呼ばれて証言を求められるというのが典型的なパターンです。
多分、日本の特許庁や裁判所は日本の期限徒過でアメリカで裁判が起きていることは知らないでしょう。
証言の内容は、大体の場合、日本の特許法のルールだけでなくその発明の特許性です。要するに、期限を落としてなくても結局特許になっていない発明であるか、期限を落としてなかったら特許になったか、が争われ、そのことについて、日本の弁理士として専門家レポートを作成し、専門家証人として出廷するというのが普通です。
その中で感じるのは、日本の無駄に厳しい制度についての理不尽さでした。一体だれのための制度なのだろうと毎回考えざるを得なかったです。
期限を落としてしまった時に代理人として取るべき行動
最後に、誰もが経験するであろう、その最悪の瞬間ですが、何をすべきかということについて纏めたいと思います。
法定期限の徒過は、例えるならば、責任ある社会人が起こした交通事故です。その際、とっさに次の行動について決定する必要があります。逃げるというのが最悪であることは誰でも分かりますが、今まで経験したことがない人は、そのような行動をとりがちです。
交通事故と同じように、特許の期限徒過も、冷静に対応すれば、大事に至らないというのが私の経験です。とにかく、被害者には誠実に対応すること。それだけです。決して責任逃れの面を見せてはなりません。
日本社会における社会制裁の厳しさから、日本人は「隠す」という行動をとりがちという悲しい事実があることも覚え、自分も日本人であるかぎり、そういう弱い面を潜在的にもっているということを認識しておくことも重要です。
過去の期限徒過の案件では、日本の特許事務所が期限徒過を隠していたことが発覚したケースがありました。私はその特許事務所について、特許庁や弁理士会から事情を聞かれたこともありました(その後その事務所は業務停止だったか厳しい処分)。
とにかく、起きるはずのないことでも、どんなに気を付けていても起きてしまうのが、この種のミスです。さすがに日本の特許出願の低下に鑑みて、最近は外国出願人にやさしくする方向で制度を変える動きが出て来てますが、期限徒過に関わらず、様々な致命的なミスがあり、それらは必ずどこかで発生します。
その際一番重要なのは、被害を受けた方にとにかく、素早く情報を開示し、誠意を尽くすということです。
どうでしょうか?
それでは今回はこの辺で!