PCT出願について、受理官庁で優先権の回復がされても、指定官庁ではその効果が有効でない場合があるので注意が必要です(日本及び米国における効果)

皆さんこんにちは、優先権の回復についてクライアントから質問があったので、下に纏めてみました。

国際出願で先の出願に基づく優先権の主張を行なおうとしたら、すでに、優先期間(1年間)が過ぎていたということがあるかもしれません。そんなとき、どのようにすれば、優先権が回復できるのか、その具体的手続きがあるのかということです。

1.PCT規則には、優先期間を徒過した優先権を救済する手続ある。

PCT規則には、優先期間満了の日から2ヶ月以内にPCT出願がされたことを条件として、優先権の回復を申請できる場合が規定されています。

具体的な手続としては、(1)受理官庁(国際出願を提出した官庁:例えば米国特許商標庁USPTO)に対して行う手続と(2)指定官庁(国内移行手続を採る官庁:例えば日本特許庁JPO)に対して行う手続とがあり、出願人は理由に応じて、どの官庁に対してどの手続きを行うか注意深く決定する必要があります。

「故意ではない場合」のみで良しとしている受理官庁の代表例は米国です。米国では国内段階でも簡単に優先権の回復が行えます。一方、「相当な注意を払った場合」という厳しい基準を採用している指定国の代表例は日本やEPCです。

なお、ブラジル、カナダ、中国、コロンビア、キューバ、チェコ、ドイツ、アルジェリア、インドネシア、インド、韓国、メキシコ、ノルウェー、フィリピン、トルコの15カ国は、現時点では救済規定の適用を除外していますので、受理官庁でも指定官庁としても救済はありません。

2.受理官庁に対する手続き

受理官庁が国際段階での優先権の回復の申請を受け付けている場合、どのような基準により認めているかが重要です。

PCT規則によれば、この基準には、「相当な注意」(より厳格な基準)と「故意ではない」(より緩やかな基準)があり、各指定官庁は、これらの基準のうち少なくとも1つを採用し、また基準の両方を採用することができます。

出願人は、受理官庁が採用している基準に沿って権利回復の手続を行うことができます。
ただし、ここで注意しなければならないのは、受理官庁が優先権の回復を認めたからと言って指定官庁もそれに従うのかということです。

指定官庁が受理官庁と同じ基準若しくはそれより緩い基準で優先権の回復を認めている場合には、受理官庁の決定はそのまま効力を持ちますが、指定官庁の基準の方が厳しい場合には、改めて指定官庁に対して優先権回復の申請を行う必要があります。

例えば、アメリカが採用している基準は「故意でない」という基準であるのに対して、日本が採用している基準は「相当な注意」であり、日本の方が厳しい基準です。この場合、仮に受理官庁であるアメリカ特許庁が回復を認めても、指定官庁である日本ではそのままでは有効にはなりません。あらためて日本特許庁に優先権回復の申請を行う必要があります。

3.指定官庁に対する手続

指定官庁が優先権の回復を認めている場合には、その指定官庁がどのような基準により認めているかを知ることが重要です。

まず、受理官庁に対して優先権回復の手続をしていない場合や、受理官庁が優先権の回復を認めていない場合でも、指定官庁に優先権回復の手続ができる場合があります。典型的には、中国や韓国では救済を認めていませんが、中国や韓国に提出された国際出願でも、指定国である日本や米国では、個別に救済が認められます。ただし、この場合でも、PCT出願は優先日から1年2カ月以内にされていることが条件になります。

指定官庁が日本特許庁の場合には、その場合の手続は国内処理基準時満了の日(ただし、翻訳文提出特例期間が認められた場合にはその日)から1月以内に行う必要があります。時間が短いので注意が必要です。また、日本特許庁は、「相当な理由」が必要であるという厳しい方の基準を採用していますので、その基準を満たす理由と証拠を提出する必要があります。

一方、受理官庁ですでに優先権回復手続を行い認められている場合、その回復の基準が指定官庁と同じであるかを調べることが必要です。、同じ基準を採用している場合には、PCT規則49の3.1の規定により、受理官庁における決定はそのまま指定官庁において同じ効力を有します。したがって、何も手続する必要はありません。

しかし、基準が異なる場合には、指定官庁に対し改めて優先権の回復を請求する必要がありまず。その場合の申請期限は、上述したように国内書面提出期間(外国語特許出願にあっては、翻訳文提出特例期間)が満了する時の属する日後1月以内です。

4.優先権の回復が認めれなかった場合の効果

優先権の回復が認められなかったとしても、国際出願自体が却下されるわけではありません。優先権の回復が認められない場合の効果は、新規性や進歩性の判断の基準日が、優先日ではなく実際の出願日になるというだけです。

したがって、実際の出願日の前に、その出願に記載された発明の新規性や進歩性を否定する先行文献等がなければ特許になる可能性があります。その判断は、特許性の審査を行う審査官が実質的に行います。

実際、優先権の回復が認められないくても特許になっている案件はたくさんあります。

どうでしょうか、何か質問があれば、お問い合わせください

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