最近の判例

【日本著作権法】折り紙の「折り図」が著作物であると認められるために必要な創作性についてのメモ

創作性は、著作物につき著作権が発生するために必要とされる要件の1つです(著作権法2条1項1号)。 創作性があるかどうかは、創作者の個性が著作物の「表現」に現れているかどうかで決まります。 問題は「表現」に著作権法にいう創作性があるかであって、その表現のもとになったアイデアや作成工程やテクニックにいわゆる新規性や進歩性があるかで判断されるべきものはありません。 したがって、折り紙を例にとって考えた場合、如何にその折り方が新規かつ独創的若しくは複雑でいわゆる創作性(注:この創作性は著作権法でいう創作性と同一ではない)があったとしても、また、完成品としての折り紙作品が素晴らしく明らかに創作性・著作物性があるものであったとしても、折り図が示す折り方の表現の仕方が平凡な図解であって誰が作っても同じ表現になる程度のものであれば、著作物としての創作性はないことになります。たとえば、折り方の工程が200回に及ぶ長大な折り図であっても、その表現が、山折り、谷折りを示す実線や点線、矢印のみで現れたものであるならば著作物性は否定されることになります。 (逆に、表現に相当の工夫が凝らされそれにより創作性および著作物性の認められるような折り図であっても、その折り方自体は著作物ではないということになります。) 折り紙の折り図についての参考判例としては、「吹きゴマ折り図事件」 平成23年05月20日東京地方裁判所(平成22(ワ)18968)/平成23年12 月26日知的財産高等裁判所(平成23(ネ)10038)があります。この判例では、原告折り図には表現上の工夫があるとして創作性・著作物性を認めつつ、「もっとも,折り方そのものは,紙に折り筋を付けるなどして,その折り筋や折り手順に従って折っていく 定型的なものであり,紙の形,折り筋を付ける箇所,折り筋に従って折る方向,折り手順は所与のもの(筆者注:要するにアイデア)であること,折り図は,折り方を正確に分かりやすく伝達 することを目的とするものであること,折り筋の表現方法としては,点線又は実線を用いて表現するのが一般的であることなどからすれば,その作図における表 現の幅は,必ずしも大きいものとはいい難い。また,折り図の著作物性を決するのは,あくまで作図における創作的表現の有無であり,折り図の対象とする折り紙作品自体の著作物性如何によって直接影響を受けるものではない。」と判断しています。すなわち、この判例では、折り方との関係については折り図でできる表現の幅はあまり大きくないということ(要するに権利の範囲はあまり広くないということ)、完成品としての折り紙作品との関係については、折り紙作品自体に著作物性があっても自動的に折り図にも著作物性があるということにはならず、折り図は折り図の表現にもとづいて判断されるべきであると明確に述べているわけです。 この事件の解説については、知財弁護士.comのこの分析がわかりやすいです。折り図を並べて比べているのでよくわかりますが、「各説明図でまとめて選択した折り工程の内容」、「各説明図は紙の上下左右の向きを一定方向に固定し、折り筋を付ける箇所を点線で,付けられた折り筋を実線で,折り筋を付ける手順を矢印で示している点」等の共通点はアイデアであり、著作権法の保護対象にはなりません。これは、アイデアと表現の二分論の話になっていますが、上記アイデアの工夫は著作権法でいうところの創作性とは無関係であるから評価の対象にならないとも言えます。すなわち、折り図が著作物であるとしても、その創作性のある部分は上記のアイデアに関連する部分を除いた部分であり、結果として権利範囲は非常に狭くなってしまうということが言えると思います。例えば、折り方を、単に図形と点線等の折り筋、矢印等で示すものは、基本的に著作物として表現されたものとは言えないため、相当表現に工夫を加えなければ、創作性があるとして著作物にはなりえないということです。 折り紙の判例ではありませんが、編み物と編み図の著作物性について争われた事件「三角パズルベスト事件」平成23年12月26日東京地方裁判所(平成 22(ワ)39994)/平成24年04月25日知的財産高等裁判所(平成24(ネ)10004)の方では、さらに、編み方、編み図および編み物すべての著作物性について否定しており、こちらの方がわかりやすいかも知れません。 米国法についてもそのうち整理したいと思います。 著作権法について質問のある方はお近くの専門家にお問い合わせください。 (T)

【米国】単離遺伝子に特許性ありの判決

2010年3月に地方裁判所で特許性なしの判決を受けたAssociation for Molecular Pathology v. USPTO事件の単離遺伝子特許に関し、連邦巡回控訴裁判所(Court of Appeals for the Federal Circuit: CAFC)にて2011年7月29日付けで地方裁判所の判決を覆す「特許性あり」の判決がだされました。 このケースは、Myriad社が保有する7つの特許に含まれる15のクレームの特許性に対して訴訟がおこされていたもので、地方裁判所で特許性なしの判決が下された後に、CAFCに対して上訴されていたものです。 今回の判決では、人工単離遺伝子分子、および単離遺伝子を用いて癌のリスクをスクリーンする方法には特許性があるとの判決がだされましたが、DNA配列の比較および分析をターゲットとしたクレームは特許性なしとされています。 研究室で合成されるcDNA分子は、不要な情報を削除した単一遺伝子情報のみを有するという点で自然に存在するDNA分子とは異なります。特許性ありと認められたMyriad社の合成されたcDNAは、乳癌と卵巣癌の発症に関するBRCA1およびCRCA2分子です。今回さらに特許性ありと認められたのは、自然に生成されるBRCA1およびCRCA2と、これらと全く同じ情報をもったcDNA分子とを比較および分析することにより癌のリスクをスクリーンする方法であり、比較および分析に関しては特許性なしとされています。 米国特許業界では、おそらく最高裁への上告がなされるであろうと予想されています。 本件の判決理由にご興味のあるかたは、こちらをご覧ください。

IV社 (Intellectual Ventures)が初となる侵害訴訟を起こしました

米インテレクチャルベンチャー社 (IV社)が初となる特許訴訟を起こしました 2010年12月8日付けで3分野に亘って9社を相手に起こしたものです。 IV社のウェブ(こちら)に同社の見解が発表されていますので、ご覧ください。 以下対象の3分野と相手です: Software security industry: – Check Point Software Technologies, Ltd. – McAfee, Inc. Symantec Corporation Trend Micro Incorporated DRAM and Flash memory industry – Elpida Memory, Inc. – Hynix Semiconductor, Inc. FPGA industry – Altera Corporation – Lattice Semiconductor Corporation – Microsemi Corporation IV社は、知的財産権を新たな投資先とすべく、また、発明の資本化を念頭にNathan Myhrvold氏(元マイクロソフトのchief strategist and chief technology officer)が2000年に起業し、知財界に物議を起こしました。その後、10年程で$5billionの資金を調達し、世界規模の特許ポートフォーリオを持ってライセンシング交渉を行ってきましたが、その中でも交渉に応じなかった相手に対し、今回の訴訟が起こされたと、IV社のチーフ訴訟弁護士Melissa A. Finocchio氏が見解を示しています。 アメリカの知財界はこの動きに対し、来るべき時が来た、という反応を見せています。 さて、日本でも同様の動きを見せるのでしょうか?興味あるところです。 (M)日本、米国弁理士 矢口太郎

米最高裁がMicrosoft vs i4i の上告申請を審理すると決定しました。

特許を侵害裁判で無効にするには、「clear and convincing evidence of invalidity」 が常に必要であるか?これについて、米最高裁が判断することになりました。 マイクロソフトは、裁判所が特許庁で引用されていなかった先行技術を理由に特許が無効であると判断する場合、裁判所は、これまでの判断基準を下げるべきであるとと主張しています。すなわち、裁判所では、特許の有効性が争われる場合、その特許を無効にするには、「clear and convincing evidence」が必要であるとの判断基準を適用してきましたが、先行技術が特許庁で引用されていなかったものである場合には、少なくとも、その基準を下げて、特許の無効を容易にせよとしているものです。(私の理解では) このケースについては随時レポートします。 矢口(弁理士 日・米)

【米国】単離遺伝子の特許性に関する米国司法省の見解

周知のように、Myriad Genetics社の遺伝子特許に関し、今年(2010年)3月、地方裁判所のRobert Sweet裁判官によって特許性なしの判決が下されて以来、遺伝子特許に関し米国では賛否両論篤い議論がかわされています。 本件はその後米国連邦巡回控訴裁判所 (Court of Appeals for the Federal Circuit) に対しアピールがなされていますが、2010年10月29日付で米国司法省 (the United States Department of Justice) が本件に関しamicus brief (アミカス・クリエ・ブリーフ(意見書))を提出しました。 このブリーフの冒頭で、司法省は、遺伝子の発見に関するこの特許性に関する判決は国家経済、医療科学、公衆衛生にとって非常に重要なものであり、米国特許商標庁(USPTO)、国立衛生研究所(NIH)、米国司法省独占禁止局、疾病対策予防センター、科学技術政策局、および国家経済会議をはじめとした様々な連邦政府関係機関の見解および責任に影響を及ぼす物である事を述べた上で、単離遺伝子の特許性を否定すべきであるとする見解を述べています。 米国司法省が提出したこのブリーフでは、以下2点が論点として提示されています: 1.cDNAのような人工のDNAは特許法§101により特許対象となりえるか 2.修飾されていない単離DNAは特許法§101により特許対象となりえるか 1982年に遺伝子関連特許認められて以来、米国特許庁(USPTO)は遺伝子特許出願の特許性を認める理由として、合成DNAをはじめ、修飾ゲノムDNAでない単離DNA分子は、自然界において単離された状態で発生することはない事を挙げてきました。 しかし、今回提出されたアミカス・ブリーフでは「遺伝子は自然の状態において自然に分離されることはない」という事実のみを基に特許性を認める事はできない」と主張しています。具体例として、土壌にねむる石炭や綿実と混ぜられた綿繊維、またはサフロンの柱頭等は自然の産物ではあるが、利用可能な状態となるには自然に起こる環境から単離されなけばならない事を例にあげたうえで、これら石炭、綿およびサフロンを自然の産物であり、特許性がないものとすることに疑問を感じる人はいないと論じています。 ただし、全ての遺伝子関連特許に特許性がないと主張しているわけではありません。産業上の利用性がある遺伝子の特定・単離・抽出の方法、もしくは遺伝子の用途および遺伝子情報に関しては、Bilski事件の判決で用いられた特許性判断基準に則り、ゲノムの人工的トランスフォメーション(変化)もしくはマニピュレーション(操作)であるとの見解を示しています。遺伝子置換治療、工学生物学的製剤、植物特性の改良方法、バイオ燃料の生成方法、およびこれらのようなバイオテクノロジーの先進適用は特許法により保護されるべきであるが、特許法101条の要件を満たすには、どんなにそれが困難で有効であれども、自然界に存在するものを特定や単離するだけではなく、それ以上の何かが必要であるとの見解をブリーフで示しています。 USPTOと全く逆の見解を示した大変興味深いブリーフであり、今後、どのように取り扱われるのかに注目が集まっています。

Bilski事件に最高裁判決が出されました。

2010年6月28日付けで、Bilski事件に最高裁判決が出されました。米国最高裁は、Court of Appeals for the Federal Circuit(連邦巡回控訴裁判所)での判決を維持し、Bilskiケースに特許性なしの判決を下しました。 連邦巡回控訴裁判所での判決までは、発明が “useful, concrete, and tangible result” を生むものである事が、特許性に関する米国特許法§101の理解とされていましたが、連邦巡回控訴裁判所の判決では、発明の工程が1) It is tied to a particular MACHINE or apparatus, or2)it TRANSFORMS a particular article into a different state or thingである必要があるとし、連邦巡回控訴裁判所の判決以降は、これを “machine-or-transformation” テストと呼ばれる特許性の判断基準としてきました。 最高裁判決によれば、今回のケースは、特許性に関して以下3つの点がポイントになります。1)it is not tied to a machine and does not transform an article;2)it involves a method of conducting business; and3)it is merely an abstract idea. これら3つのポイントに関して、今回の判決は具体的には以下のように判断しています。1)”machine-or-transformation”テストは多くのケースで適応可能だが、これだけが唯一のテストとするべきではない。2)§273には “method (方法)” が定義されているが、ビジネス方法は、少なくともある状況ではある種の “方法” であり、§101の規定に従えば、特許性はある。3)今回の発明は、あるmathmatical algorithmに依存をした発明である。このalgorithmは、今回のクレームで限定されていた石油化学製品および石油の精製分野のみに使われるものではない。このmathematical algorithmが発明の要因であることにより特許性がないと判断されているのではなく、このmathematical algorithmを先行技術と比較した場合に、特許性のある発明が含まれていないことが問題であるとし、特許性はなしとする。 上記の通り、Bilskiのケースに関しては、3)がネックとなり、当該発明は単なる”アイデア”に過ぎないため、特許性なしの判決に至ったものです。 尚、Bilski出願のクレーム1は以下の通りです。1. A method for managing the consumption risk costs of a commodity sold by a commodity provider at a fixed price comprising the steps of: (a) initiating a series of transactions between said commodity provider and consumers of said commodity wherein said consumers purchase said commodity at a fixed rate based upon historical averages, said fixed rate correspoding to a risk postion of said consumer; (b) identifying market participants for said commodity having a counter-risk position to said consumers; and(c) initiating a series of transactions between said commodity provider and said market participants at a second fixed rate such that said series of market participant transactions balances the risk position of said series of consumer transactions. 連邦巡回控訴裁判所の判決から基準となった”machine-or-transformation”テストにより、ソフトウェア業界からはこのテスト問題点を訴える声が各所からあがっていました。上記1)にある通り、”machine-or-transformation”テストだけが特許性の基準でないとの判決により、ソフトウェア業界からは安堵の声があがっています。 最高裁の判例要覧にご興味のある方は、以下をご覧ください。http://www.supremecourt.gov/opinions/09pdf/08-964.pdf

薬剤の投与方法に関するクレームがCAFCで”特許性有り”と認められました

下級審で特許性無しとの審決がだされ、CAFC (米国連邦巡回控訴裁判所)にアピールされていた”Prometheus Labs. v. Mayo Clinic”の件で、薬の投与法に関するクレームが特許性ありと認められました。 治療薬を投与し、投与された患者の代謝反応が測定され、この測定結果により次の投与量が調整される工程を繰り返す内容の特許ですが、Federal CircuitはBilskiでの審査基準となった”Machine or Transformation test”に沿い、ある物を別の状態や物に変形・転換する(transforms an article into a different state or thing)ことがクレームされているプロセスの中で中心的な役割を果たすものである判断し、特許性ありの判決を出したものです。 Bilski事件の最終審判によっても最高裁へのアピールが左右される興味深いケースです。CAFCの見解に興味のある方は、こちらをご覧ください。http://docs.google.com/gview?a=v&q=cache%3AN-14fwauwFIJ%3Acaselaw.findlaw.com%2Fdata2%2Fcircs%2Ffed%2F081403rp.pdf+Prometheus+Labs.+v.+Mayo+Clinic&hl=en&gl=us&sig=AFQjCNEHcNSNx7fiKmee9JIA3oYx0RFRyA

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