現在のところ、日本で使用されている治療機器の多くが輸入品で、年間5000億円以上の貿易赤字が生じています。これに対して、ステントやペースメーカーなどの重要な低侵襲性医療機器を、国産で安価かつ高品質に製造することが求められています。
優れた医療機器を開発するには、産学連携が重要であることは広く認識されていますが、その際特に重要な役割を果たすのが大学スピンアウトです。この点、日本は遅れているというか、医療機器、特に治療の分野で言えば皆無です。米国では、大学に優れたアイデアがあると、すぐにスピンアウトしてベンチャー企業が作られ集中的に医療機器開発をしてきます。そして、独創的な部分の研究開発をこのベンチャー企業と臨床医師が共同で行い、最終的には大手医療機器メーカー等の戦略的パートナーの手を借りて商品を市場に出していくのが理想であるといわれています。
日本の医療機器メーカーは、採算性の問題から、海外市場も目指さなければならず、これは、ベンチャー企業も同じです。日本では大企業ほど人命にかかわる研究開発のリスクを避けようとする傾向にあり、こうした大企業を戦略パートナーとして協力が得にくいということがあるし、そもそも国内医療機器メーカーは数が少ないため、おのずと戦略パートナーは外資系になるのではないでしょうか。
また、現在、外資系医療機器メーカの多くは臨床開発拠点を日本においておらず、販売店のみをおいているが、このような外資系メーカーが上記ベンチャー企業や医療機関を通して、日本で臨床開発を実施してもらうことで、日本国内の臨床開発現場が医療機器開発から取り残されずノウハウが蓄積することになることにつながると思わます。このように臨床開発現場の育成を行うことも重要です。このためには、治験や薬事承認等、各種開発環境を整備する必要があります。
ちょっと長くなりましたが、日本発医療機器の開発を促進するには、
(1)スピンアウトの創出
(2)スピンアウトを通した民間投資資金による医療機器開発の促進
(3)スピンアウトと臨床医師、パートナー大手医療機器メーカーとによる臨床開発
(4)治験や薬事承認等、各種開発環境を整備
が必要であると思う。
スピンアウトといっても素人がむやみに初めてしまっては、権利関係を含めその後の処理が大変になるため、好ましくありません。すなわち、スピンアウトの創出において大きな役割を担は、「産学連携・経営のプロ」であり、例えば、米国では、この点、大学の産学連携拠点・ビジネススクール・ロースクール等が素晴らしい支援体制を持っていて、経営陣や投資家を見つけてくるなどの支援体制がとられています。そして、それに応える、ファイナンスを中心としたプロの投資家の存在も重要です。
日本で同じようなことを実現しようとしたらどうすればよいのでしょうか、この点、米国にて起業経験を含む経営ノウハウを持ち、技術移転及び知的財産の日本人専門家である我々に、大きな役割を果たすことが求められているのではないかと、最近思っています。
その一つの答えが、我々が最近開発している知財インキュベーションファンドです。これは、フィージビリティがあるアイデアについて知財・経営・許認可の各分野の専門家がリードするバーチャルベンチャーをファンドの形で作ってしまおうというものです。
2011年4月29日 矢口 太郎